【電気事業法】FIT制度による発電所で標識及び柵塀等の設置義務違反が多発

電気主任技術者(第1種、2種、3種)

 

【電気事業法】FIT制度による発電所で標識及び柵塀等の設置義務違反が多発

 

FIT制度では、認定事業者に対し、電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法(以下「再エネ特措法」という)に基づき、設置する設備に標識及び柵塀等の設置が義務付けられています。

 

しかしながら、依然としてこれらの義務を遵守していない事業者が多数存在しており、標識及び柵塀等が未設置である旨の情報が経済産業省に多く寄せられているそうです。

 

この標識及び柵塀等の設置義務については、再エネ特措法に基づく認定基準の一つであり、遵守されていない場合は、指導や改善命令等を行うこととなり得ます。

 

そもそも、なぜこのような柵塀等の設置義務違反が発生するのでしょうか?

 

今回は、なぜこのような事態になったのか、安全コンサルタントの視点でなぜ危険なのか、どのよな設置のルールがあるかについて、解説します。

 

 

1.発電所の電気工作物に対して、なぜこのような柵塀等の設置義務違反が発生したのか?(義務違反発生の理由)

 

申込時に、図面を提出させ、それに基づき、認可を与えて、設置完了後に確認すべきところを監督官庁が確認しないため、このような事象が発生するのは、当然な結果といえるのではないでしょうか?

 

FITによる発電所は、小出力の設備が多く市民が生活する市街地にも多数普及しており、人が容易に近付ける状態にあります。

 

にも拘わらず、海外資金による金儲けのためのFIT発電所も多く存在しており、儲け重視でモラルにかけることは分かっていたのに、設置許可だけ与えて、確認を放置してきた監督官庁にも、一般市民を危険にさらしてきた責任はあると感じています。

 

もちろん柵塀等の設置義務があるのにも拘わらず設置しない認定事業者も悪いのですが、これを放置してきた監督官庁にも問題があるといえます。一般市民からの多数の苦情で問題が顕在化した次第であり、監督官庁としてお粗末過ぎます。

 

 

2.地域社会に対する安全性の阻害(安全コンサルタントの視点)

 

・標識の掲示がされていない場合、太陽光発電設備が地域における公衆安全や生活環境を損なう恐れがある際に、発電設備についての管理責任を負う者が不明となり、危険な状態への速やかな対応ができないことが想定されます。

 

・柵塀等が設置されていない場合、発電設備が地絡などの異常状態にある際には、第三者が感電等により被害を受けるおそれや、安定的な発電が阻害される可能性があります。 

 

 

・具体的には、標識に設置者の連絡先がなければ、太陽光パネルの破損や風力発電のブレードが破損して、危険な状態にあるにも拘わらず、一般市民が見つけて連絡しようにも、連絡先が分からないないため、危険な設備が放置されたままになります。

 

・また、電気工作物に柵塀等がないと、電圧がかかっている設備に子供がかくれんぼして、太陽光パネルの影に隠れて感電する危険性や、パネルが破損により飛散し柵で防げるものが、直接歩行者に飛来物がぶつかり、ケガや死亡する危険性があります。

 

・設置事業者の柵塀等の設置義務違反により一般市民がケガや死亡事故が発生した場合に、設置事業の責任者の刑事罰、行政罰、社会罰は、避けられないと考えた方がよいでしょう。

 

 

3.FIT制度による認定事業者のルール

 

上記の事態を防ぎ、地域と共生した形での事業実施を促すため、FIT 制度では、認定事業者は事業の実施にあたり、

 

(1)発電設備又は発電設備を囲う柵塀等の外側の見えやすい場所に標識を掲示すること
(再エネ特措法施行規則第5条第1項第5号及び事業計画策定ガイドライン)

 

(2)事業に関係ない者が発電設備にみだりに近づくことがないよう、適切な措置を講ずること
(具体的には、外部から容易に発電設備に触れることができないように、発電設備と十分な距離を確保した上で、構内に容易に立ち入ることができないような高さの柵塀等を設置すること)
(再エネ特措法施行規則第5条第1項第3号及び事業計画策定ガイドライン)

 

が義務付けられております。 

 

標識や柵塀等を適切に設置していないと認められる場合は、再エネ特措法第12条に基づき指導を行われます。また、指導の後に改善されない場合には、改善命令や認定取消しの対象となる可能性があることに注意する必要があります。

 

なお、ようやく監督官庁は、これらの義務の遵守を適正に担保するため、2021年度からは、供給開始までに標識や柵塀等を設置する旨の宣誓書の提出を申請に当たって求めることとになりました。

(固定価格買取のFIT制度が2012年7月1日からスタートし、制度設計期間を含めると10年以上経つのに、今まで監督官庁の行政機関は何をしていたのでしょうか?)

 

 

4.具体的な措置ルール

 

(1)標識の設置に関する注意点

 

・標識は、土地の開発・造成の工事開始後(土地の開発・造成を行わない場合には発電設備の設置工事の開始後)速やかに掲示し、再エネ特措法に基づいて売電を行っている期間が終了するまで行うこと。

 

・風雨により劣化・風化し文字が消えることがないよう適切な材料を使用することとし、発電設備の外部から見えやすい位置に取り付けること。

 

・強風等で標識が外れることがないように設置すること。

 

・標識の設置については、下記の図「標識のイメージ」に準じた標識を設置することが必要。

 

・屋外広告物条例等の関連条例により、掲示の大きさや色などが規制される場合は、関連条例の規定に従い、標識を掲示すること。

 

・出力 20kW 未満の太陽光発電事業者は、再エネ特措法上の掲示義務の対象外だが、周辺地域と共生した形で適切に事業を実施するために、できる限り事業情報を掲示することが望ましい。

 

<FIT標識例>

 

 

(2)柵塀の設置に関する注意点

 

・設置形態上、第三者が容易に発電設備に近づくことができない場合を除き、外部から容易に発電設備に触れることができないように、発電設備と柵塀等との距離を空けるようにした上で、 構内に容易に立ち入ることができないような高さの柵塀等を設置すること。

 

・柵塀等の使用材料については、ロープ等の簡易なものではなく、 金網フェンス等の第三者が容易に取り除くことができないものを用いること。

 

・柵塀等の設置の形式については、電技省令及び電技解釈を参考にすることが望ましい。

 

・柵塀等の設置が困難な場合(屋根置きや屋上置き等)や第三者が発電設備に近づくことが容易でない場合(塀つきの庭に設置する場合、私有地の中に発電設備が設置され、その設置場所が公道から相当程度離れた距離にある場合等)には、柵塀等の設置を省略することができる。

 

・ソーラーシェアリング等を実施し、柵塀等の設置により 営農上支障が生じると判断される場合には、柵塀等の設置を省略することができることとする。

 

 

<不適切な柵塀未設置の事例>

 

<不適切な柵塀設置の事例>

 

<適切な柵塀設置の事例①>

 

<適切な柵塀設置の事例②>

 

 

5.まとめ

 

・屋根置きや屋上置き等により、第三者が発電設備に近づくことが容易でない場合には、柵塀等の設置を省略することができる。

 

・つまり、平地に架台を組んで太陽光パネルを設置する場合や風力発電設備を設置して、第三者が発電設備に近づくことが容易にできる場合には、柵塀等の設置が義務付けられています。

 

・発電設備又は発電設備を囲う柵塀等の外側の見えやすい場所に標識を掲示することとなっており、発電事業者か保守点検責任者の連絡先(電話番号)の記入が必要です。

 

・但し、出力 20kW 未満 の太陽光発電事業者は、再エネ特措法上の標識掲示義務の対象外ですが、周辺地域と共生した形で適切に事業を実施するために、できる限り事業情報を掲示することが望ましいとされています。(屋根置きや屋上置きでない、平地に架台で太陽光パネルを設置する場合には、標識を掲示して、何かあったときに、連絡を貰えるようにしておいた方が望ましいでしょう)

 

・柵塀等で電気工作物を囲う場合には、第三者が電気工作物に用意に手が届かないようにある程度、離隔をとり、子供たちが容易に侵入できない高さの柵塀で囲う方がよいでしょう。

 

・柵塀には、数か所、「電気設備の危険標識」を取付けて、感電防止のため公衆に向けて立ち入り禁止を周知ことも必要です。

 

・以上により、自然エネルギーの発電所を普及していくのであれば、安全面において「再生可能エネルギー」と「地域社会」との共生を図っていく必要があります。

 

 

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