【消防法】非常用自家発電設備の点検基準の改正 ~発電機負荷運転試験の代替策と延長策~
消防用設備等の点検は、点検基準に従って行う必要があり、自家発電設備の点検基準において、1年に1度の総合点検時に運転性能の確認(負荷運転又は内部観察等)を実施することを求めています。
非常用発電機の負荷試験(負荷運転)点検は消防法(消防予第214号)により義務付けられていますが、2018年 (平成30年) 6月1日に非常用自家発電機の点検基準が大きく4点改正されました。
まず、負荷運転とは何かを解説し、その上で、負荷運転に関する4つの改正のポイントを解説します。
自家発電設備には負荷運転以外にも点検項目があるため、点検基準を紹介し、最後は、電気電子部門及び機械部門の技術士として改正に対する見解を述べさせて頂きます。
1.負荷試験(負荷運転)とは
負荷運転は、無負荷運転よりも機械的な負荷や熱的負荷を高くかけて作動させ、外観点検や無負荷運転では確認できない内部部品の損傷等による振動、冷却機能の不良などの不具合を確認する点検。また、無負荷運転を繰り返し実施することにより、排気系統等に未燃燃料や燃焼残さ物等が蓄積し、運転性能に支障を及ぼす可能性があるが、負荷運転により、この未燃燃料などを燃焼し除去することが可能とされています。
実際にどんな確認をするかというと、負荷運転を実施し、漏油、異臭、不規則音、異常な振動、発熱等がなく、運転が正常であることを確認します。
【負荷運転の点検方法と判定方法】
○点検方法
実負荷、又は模擬負荷装置により、定格回転速度及び定格出力の30%以上の負荷で必要な時間(※)連続運転を行い確認する。
○判定方法
ア運転中に漏油、異臭、不規則音、異常な振動、発熱等がなく、運転が正常であること。
イ運転中の記録はすべて製造者の指定値範囲であること。
※「必要な時間」とは、判定方法に係る項目を確認する時間をいいます。発熱等による温度が正常かを確認するには、ある一定時間運転しなければ、温度上昇が飽和した確認がとれず、設計温度(製造者の指定値)をクリアしているのか判定できないためです。
【実負荷運転の問題点】
・防火対象物によっては、商用電源を停電させなければ実負荷による負荷運転が実施できない場合がある。
・この場合、病院やホテルなど休みがなく商用電源を停電できない場合には、模擬負荷装置をセットして試験しなければならない。
【模擬負荷運転の問題点】
・擬似負荷装置の手配や監視要員の配置等にコストがかかる。
・防火対象物の規模や自家発電設備が設置されている場所によっては電気ケーブルの敷設工事等が困難な場合がある。具体的には、自家用発電設備が地下や屋上などに設置されているケースでは、重量物でスペースをとる模擬負荷装置を搬入できないケースや、屋外に設置したとしても電気ケーブルの長距離敷設ができないケースがあります。
2.非常用自家発電設備の点検基準4つの改正ポイント
(1)負荷運転に代えて行うことができる点検方法として、内部観察等を追加する
【総合点検における運転性能点検の方法】
〔従来〕負荷運転のみ
↓
〔改正〕内部観察等(※)を追加
※潤滑油の分析、シリンダーの内面確認等の5項目の点検
【改正な根拠】
内部観察等の点検は、負荷運転により確認している不具合を負荷運転と同水準以上で確認でき、また、排気系統等に蓄積した未燃燃料等も負荷運転と同水準以上で除去可能であることが、実機での検証データ等から確認できたため。
【内部観察等の追加】
① 過給器コンプレッサ翼及びタービン翼並びに排気管等の内部観察
②燃料噴射弁等の確認
③シリンダ摺動面の内部観察
④潤滑油の成分分析 & ⑤冷却水の成分分析
(2)一定の条件を満たす場合は負荷運転及び内部観察等の点検周期を延長する
【負荷運転の実施周期】
〔従来〕1年に1回
↓
〔改正〕潤滑油等の交換など運転性能の維持に係る予防的な保全策が講じられている場合は6年に1回
【改正な根拠】
負荷運転により確認している不具合を発生する部品の推奨交換年数が6年以上であること、通常点検により無負荷運転を6年間行ったとしても運転性能に支障となるような未燃燃料等の蓄積が見られないことが、実機での検証データ等から確認できた。一方、燃料の供給や燃焼、冷却等が適切に行えない場合には、多量の未燃燃料や燃焼残さ物等が発生することが懸念されることから、経年劣化しやすい部品等について予防的な保全策(年数等により不具合が発生する前に予め交換等)を行っておくことが適当とされたため。
【予防的な保全策】
予防的な保全策①1年ごとに確認すべき項目
予防的な保全策②製造者が設定する推奨交換期間内に交換すべき部品
【予防的な保全策を講じた点検周期シミュレーション】
(3)原動機にガスタービンを用いる自家発電設備は負荷運転を不要とする
【負荷運転の対象】
〔従来〕すべての自家発電設備に必要
↓
〔改正〕原動機にガスタービンを用いる自家発電設備は不要。但し、無負荷運転は必要。
【改正な根拠】
原動機にガスタービンを用いる自家発電設備の無負荷運転は、ディーゼルエンジンを用いるものの負荷運転と機械的及び熱的負荷に差が見られず、また、排気系統等における未燃燃料の蓄積等もほとんど発生しないことが、燃料消費量のデータ等から確認できたため。
(4)換気性能点検は負荷運転時ではなく、無負荷運転時等に実施するように変更する
【換気性能の点検】
〔従来〕負荷運転時に実施
↓
〔改正〕無負荷運転時に実施
【改正な根拠】
換気性能の確認は、負荷運転時における温度により確認するとされているが、負荷運転時の室内温度の上昇は軽微で、外気温に大きく依存するため、無負荷運転時に自然換気口の作動状況や機械換気装置の運転状況を確認することより行うことが適当とされたため。
3.自家発電設備の点検基準(点検項目)
4.改正に対する見解
私は、技術士の電気電子部門と機械部門を保有する技術者であり、今回の改正について以下に、技術者としての視点で見解を述べさせて頂きます。
・予防的な保全策を講じることにより負荷運転又は内部観察等の周期が6年に伸びるが、予防的な保全策が消耗品の点検や一式交換にあたるため、非常用自家発電機として稼働率が低いものに対して、そこまでするのかという考えがあります
・よって、負荷試験が実施しやすい設備形態であれば、今まで通り負荷試験を実施して点検するのが、保守運用において効率的だと考えます。
・但し、負荷試験が簡単にできず模擬負荷装置のセットが困難なケースでは、予防的な保全策(内部観察等を含む)と模擬負荷試験6回分の費用を比較検討して、どちらに選択すればよいか検討したほうがよいと考えます。
・予防的な保全策を6年周期で講じていく場合には、消耗品の点検や一式交換であるため、次回は、分解点検整備にあたる内部観察等を一緒に実施すれば、効率的であり、負荷試験が永久に必要なくなります。但し、分解点検整備したのであれば、本来、負荷運転試験で組立品質を十分確認する必要があると考えますが、負荷運転を実施しないのであれば、無負荷運転で品質を十分確認する必要はあると考えます。
・予防的な保全策を講じる場合には、部品交換等で1日~数日程度、内部観察等を実施するのであれば、数日~1週間程度、自家発電設備を非常用として使えない期間が発生し、その間、停電のリスクが生じます。
・予防的な保全策は、消耗品の点検や一式交換に相当する積極的な保守であるため、負荷運転試験を毎年実施するケースにおいても、運用状況により12~24年に一度ぐらいは、内部観察等を含めて実施した方がよいと考えます。
・ガスタービンエンジンは、部分負荷運転の効率が悪く、フル負荷運転と部分負荷運転の燃料消費があまり変わらない特性がある内燃機関であるため、原動機としては、無負荷運転で十分確認がとれるものと考えます。但し、発電機としては、無負荷運転で電流が流れないため、品質の担保がとれないことに対して疑問が残ります。
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